ご挨拶
昨年は、5月に新型コロナウィルス感染症が5類感染症へと移行し、様々なことを少しずつコロナ前の状態に取り戻していく一年でした。12月には地域の方々をお招きして、4年ぶりとなるクリスマス会を実施し、年度末には、歓送迎会の折、児童・職員が本園で一堂に会しての食事会を行うこともできるまでになりました。日々の人と人との交わりの機会が以前のように戻ってきたように感じられます。
児童養護施設仙台天使園では、現在47名の子どもたちが本園の6つのユニットと4つの地域小規模施設に分かれて生活をしています。1933年に聖ドミニコ女子修道会によって活動がはじめられた仙台天使園は、昨年設立90周年を迎えましたが、今もキリスト教のメッセージを創立の精神として大切にしています。価値観が多様化する現代社会の中で、すべての人が神の前で平等な兄弟姉妹であることを土台に、小さい者、弱い者、苦しむ者、悲しむ者へ温かい眼差しを向け、互いに仕えあい、奉仕をいとわない精神は、2000年前にイエスが見本を示してくれたもので、仙台天使園にも受け継がれているものです。この伝統をこれからも次世代へとつなげていきたいと思います。
近年、日本の社会では「DV」、「児童虐待」、「子どもの貧困」、「貧困の連鎖」などという言葉を頻繁に耳にするようになりました。毎週、全国で一人以上の「虐待死」も報告されているようです。これらのキーワードはいずれも児童養護施設の使命に関連する言葉です。今、様々な理由で家庭を離れ、施設で生活しなければならない児童をお預かりし、健全に成長していくことを助け、さらに将来の進路へつなげていけるよう力を尽くすことは、私たち施設職員にとって、世の中からの喫緊の要請に応える貴い仕事であると考えています。子どもたちは身近な大人からたくさんの影響を受けて育ちますので、職員一人ひとりが研鑽を惜しまず、心して日々励んでいきたいと思います。
昨年春の7名に続き、今年の春は5名の園児が高校を卒業し、園を巣立っていきました。今年は3名が就職、2名が4年制大学への進学をしています。一般に児童養護施設出身者は、18歳の自立に際し、どうしても支援が必要になります。通常ならこのような時に期待できる家族や親せきなどによるセイフティーネットが十分にないまま社会に出ていく卒園生が多いのが現状なのです。進学を希望する場合の学費や、住居費、生活費など金銭的な援助が保障されないと進路選択の幅も狭まりますし、初めての一人暮らしへの不安も大きいものです。園としてはアフターケアの職員を置き、卒園後3~4年間のサポート体制を敷いて援助ができるようにしていますが、経済的な援助のために、園独自の「自立支援金」も蓄えています。この支援金は皆さまのご寄付がよりどころです。今年度の高校生は20名、そのうち3年生は8名です。これからも毎年複数の卒園生が巣立ちます。引き続き皆様のご協力をいただければ幸いです。
7年前に発表された「新しい社会的養育ヴィジョン」に基づき、児童養護の世界の変革が進んでいます。4年前には宮城県や仙台市も「社会的養育推進計画」をそれぞれ発表し、向こう10年間の社会的養護の見通しを提示しました。今年はこの計画について中間の見直しが行われる年度になっています。里親養育を進め、施設では家庭的養育を推進する流れが年ごとに加速しています。仙台天使園も、各ユニットやグループホームでの日々の養育の営みを、家庭的でますます豊かなものにする努力を継続しながら、創立100周年に向けての新たな歩みを進めてまいります。これまでのご支援、ご協力を感謝するとともに、これからの仙台天使園も温かく見守り支えていただけるようにお願いいたします。
2024年(令和6年)6月
園長 土倉 相